僕の妻が観たもう一つの「ノルウェイの森」

昨日のエントリーでも書かせていただいたが、昨日「ノルウェイの森」を観にいった。
久しぶりの映画である。
80年代〜90年代にかけてはよく映画を観にいったが、最近はトンと映画館に足を運ばなくなってしまった。
この「ノルウェイの森」は以前より、妻と一緒に行く約束をしていた映画だ。
僕自身、ビートルズ、村上春樹と来たからには、どうしてもトライ・アン・ユンも押さえておきたかったのである。個人的に「ノルウェイの森」三部作の最終章というわけだ。
一方で妻も事前に小説を読んだり、ネットで情報を収集したりして、準備万端だったようだ。僕のこの映画に対する雑感は昨日の「「ノルウェイの森」、小説と映画におけるテーマの違い」で記したので、今日、ここに書きたいのは妻が抱いた「ノルウェイの森」評を中心とした話である。
        ★
妻の観方は、直子(菊地凛子)からみた視点であった。
当然といえば、当然であるが、僕は男性ゆえに、主人公のワタナベ(松山ケンイチ)にシンパサイズしてこの映画を観ていた。
しかし、彼女は違った。徹底的に直子からの視点で、スクリーンを見ていたのである。
僕らは家に帰ってきて、自然と、今、観た映画の話になった。僕は直子の死因は、キズキとワタナベに対する罪ではないかと思っていたが、彼女の観方は微妙に違った。

直子は、男性を好きなると、逆に体が閉じてしまうという悲しい精神をした女の子だ。キズキの死もそのことが原因であるという自覚を持っている。つまり、罪の意識に囚われているのである。
また、直子はワタナベに対しても、心が惹かれていくに連れて、体は閉じてしまう。そして、その自分の精神の宿命に対して、思い詰めて病んでいくのだ。多分、ここまでは僕と妻の観方はほぼ同じだと思う。しかし、最終的に、直子がその命を絶つ理由の解釈が微妙に違っていたのだ。
僕はある意味、単純に罪の意識が生きる意欲を凌駕した時点に彼女の死があったのではないかと考えていたのであるが、妻は、罪による死という以上に、自分の21歳の時の姿を永遠にワタナベの中に刻印するために死んだのではないかというのだ、例えば、ル・コントの「髪結いの亭主」において妻・マチルドが幸せの絶頂で死を選んだのと同じように...

なるほど、でもそれって女性(直子)にとっては最高の死であっても、一方の男性(ワタナベ)にとっては残酷すぎる結果にしかならないのではないの?と僕。

17歳のままのキズキ、21歳のままの直子を心の中に刻印しながら生きていくことを選択しなきゃいけないワタナベ。それが残された者の道でしょ、と妻。

しかし、妻はそれも究極の愛の形だというのである。
プラトニック恋愛の至高形を「死」で示した直子、その一方で、愛情と肉体とが矛盾無く連動しているダイナミックな「生」の世界に生きている女の子・ミドリ(水原希子)、そして愛情とを全く無関係なものとしてセックスをする永沢(玉山鉄二)。異なる3つの世界(「死」の世界、「生」の世界、「快楽」の世界)を流されるように放浪させられた存在がワタナベなのではないかと、そして、最後のワタナベの「僕はどこにいるんだ?」というセリフは、そんなワタナベが今までの放浪から生還し、自分が生きていくべき世界はミドリのいる世界であることに覚醒した瞬間としてとらえるべきではないかと言うのである。
        ★
一つの映画を観た後に、思いっきり語るというのは楽しい。
誰の意見が正しいとか間違っているとかは置いておいて、いろんな観方が出来るような映画はやっぱり名作といってもいいと思う。
どの映画とは言わないが、「愛する人が不治の病になって死んでしまう」というような映画は確かに、涙を誘うが、それはある意味、一面的で強引だ。
むしろ、泣けない死を描いた「ノルウェイの森」こそ映画らしい映画というべきではないのだろうか。

「これはヒットしないね」
僕と妻の共通の一言はそれであった。

まさむね

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