「Nowhere Boy」それはあまりにも正直な男の話である

飯田橋ギンレイホールで「ノーウェアボーイ」を観た。

この映画は、ジョン・レノンの青春時代をドラマ化したもので、特に母親ジュリアンと伯母ミミとの間で翻弄され、傷つきながらもロックンロールや仲間たちと出会い、一人の男として成長していく彼の姿を描いている。正直、秀作だ。

開場前から、長蛇の列が出来ていた。改めてジョンレノンの人気の深さを思い知る。特に中高年の方が多いようだ。おそらく、観客一人一人、それぞれのジョン観を胸に抱きながらスクリーンを見つめていたに違いない。そんな言葉にならない暖かさが会場に満ちていたというのは僕の錯覚か。

さて、これは僕の見立てであるが、ジョンは、実の母親であるジュリアンから労働者階級的な享楽主義、ロックンロール、肉体主義などを受け継ぎ、伯母のミミからは中産階級的な教養や知性、向上心を受け継いだ。そのために彼は肉体は労働者階級、頭は中産階級という複雑な存在としてビートルズを奇跡的な成功に導いたのである。

この映画で、繰り返されるシーンがあった。ジョンが外出しようとすると、必ず、ミミがジョンに、「眼鏡をかけていきなさい」と声をかけるのだ。ジョンは、その場ではミミの言う事を聞いて眼鏡をかけるが、家から離れると眼鏡をはずすのである。正直、カッコ悪いからだ。

おそらく、ここでは眼鏡はミミへの服従(のフリ)のメタファーになっている。逆に言えば、眼鏡をはずすということは少年・ジョンにとって、自由を得るということでもあるのである。

ちなみに、こんなシーンもあった。「眼鏡をかけなさい」というミミ、「ポケットに入っているよ」とジョン、「ポケットは近眼じゃないでしょ」とミミ、このあたりにイギリス的ユーモアが垣間見られた。

しかし、僕らが後年、ビートルズ史を振り返る時、ジョンレノンが、アイドルという仮面を脱ぎ出した頃、つまりステージを降りた頃、年代でいえば66年頃に眼鏡をかけ始めたという歴史に思い至る。そして、逆に眼鏡こそ、ジョンの象徴的アイテムになっていくのだ。彼がロックンローラーから、内省的なロックミュージシャンに変貌していくために、そして労働者階級的肉体主義から、中産階級的観念主義へ移行していくために、眼鏡は必要なアイテムだったと言うのは言いすぎだろうか。

もっともそれは、この映画の観点からすれば、まさに皮肉だ。ジョンの眼鏡は、逆に、社会の反逆者・ジョンの象徴となっていくのだから。

さて、この映画について、もう一つ語ってみたいことがある。それはこの映画のタイトル「NowhereBoy」のことである。映画の最初の方で、ジョンは学校の教師に叱責される。その時、お前はこのままで行ったら就職が出来ないだろう、行き場もなくなるだろうと言われる。そこでNowhereという言葉が使われる。それに対して、ジョンは「そこは天才のたまり場?おれの場所です」というように返す。

そして、映画の中では、ミミの家は窮屈、ジュリアンの家には居場所がないという、悩み多きNowhereBoyとしてのジョンが描かれている。

しかし、ジョンの凄さは、上記二つの個人的なNowhereBoyを超えて、普遍的なNowhereManを発見したことだろうと僕は思っている。

少々大げさに言えば、「Rubber Soul」の中の「Nowhere Man」は、共同体から引き剥がされて、自分自身とは何なのかについて夢と不安の中で生きざるを得ない運命を背負った20世紀後半以降の若者を表現するのにもっともふさわしい曲なのだ。

さらに言えば、「Nowhere Man」というのは「Now Here Man」ということでもある。

つまり、どこにも居場所の無い男は、今、ここにいるありふれた男、というダブルミーニングにもなっているということだ。

この映画のもう一つの見所、それは、後に天才と言われたジョンは、実は、やんちゃで、スケベで、嫉妬深い、時に暴力的で、時にナイーブでわがままでおちゃらけた、しかし優しい普通の少年だったというところである。

彼の天才性は、特別の才能というよりも、そんな自分をさらけ出せる特別な正直さだったのかもしれない、この映画はそんなことも僕らに教えてくれる。

昔、僕がお世話になった会社(GAGA)が配給している映画だからというわけではないが、未見の方は、是非、劇場で見て欲しい映画だ。

まさむね

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