「魔法少女 まどか☆マギカ」における虚しい承認欲求の果てに見た悟り

「魔法少女 まどか☆マギカ」のテーマの一つはディスコミュニケーションの残酷さ、そしてその残酷さを乗り越えることは可能なのかということである。
今更、言うまでもないが、ディスコミュニケーションとは、想いはなかなか他人には伝わらないということ、他人と同じ状況にならないと本当の分かち合いは難しいのではないかということである。

たとえば、密かに想いを寄せる幼馴染の怪我を治してもらうことを条件にして魔法少女となったSAYAKAだが、結局はその想いを彼に伝えることを躊躇した。
魔法少女となることは実は人間ではなくなるということを知ったから、つまり、彼とは違う状況になってしまった私では、彼から愛してもらうことはあり得ないと悟ったからだ。

そして、MADOKAは、そんなSAYAKAを慰めようとするが、「闘わないあなたに私の気持ちがわからない!」と逆に怒鳴られる。
それに対して言い返す言葉を持たないMADOKA。
しかも、魔女(遣い魔)との連戦によって、ソウルジェムが穢れて、魔女と化してしまうSAYAKAに対して、それでもMADOKAは自分の気持ちを伝えようとするが、既に魔女と化したSAYAKAは聞く耳を持たなかった。その時のMADOKAの圧倒的な絶望感は、このアニメの一つの大きなテーマの一つである。
また、その場面で、魔女となってしまったSAYAKAをなんとか、元に戻そうと必死に戦い続けるもう一人の魔法少女であるKYOKOも、かつて、父親のために、よかれと思ってやったことが逆に、家族を崩壊させてしまうというディスコミュニケーションのパラドクスに陥った経験を持つアダルトチルドレンなのであった。

さらに、一方でMADOKAを救おうと、同じ時間を何度も行き来して、「ワルプルギスの夜」という強大な魔女と戦い続けるHOMURAのの想いは主観的にはMADOKAの救済だが、実は、それは逆にMADOKAの因果を増幅させるという結果をもたらしてしまう。
つまり、ここでは、他者のためにつくせばつくすほど、それは他者を不幸にしてしまうという逆説を表現している。それは先ほど少し述べたKYOKOが陥ったパラドクスとも同じだ。
そして、その事実を知ったHOMURAは、この想いと現実の断層に打ちひしがれる。

しかし、このディスコミュニケーションの残酷さを乗り越える方法が、最終回で提示される。
それは、己の存在を過去から未来永遠に消し去る事を覚悟の上で、「魔女」の出現を食い止めようとするMADOKAの覚悟によってだ。彼女は永遠に誰からも賞賛されず、承認すらされない「概念」となることによって、この世界に貢献し続けることを喜んで引き受けるのである。
つまり、ディスコミュニケーションの残酷さを究極のところで乗り越えるのは、承認を求める欲求に蓋をして、他者のために何事かをなすのは、他者のためはない、自分のためですらない、それは、ただ運命に従うことだという悟りに達するということなのである。
そして、それがこのアニメの一つの主題だとしたら、その一方で、そんなMADOKAの必死の戦闘とは別次元の世界で、僕らが出来ること、それは彼女のような存在を時々、想像し、感謝してみることでしかないというのがこのアニメが僕らに語りかけてくるもう反面のささやかな真実である。

僕らが住んでいるこの社会、毎日、普通に電車に乗って会社(学校)に行き、仕事(勉強)をして、帰宅する、そんな平凡な毎日の繰り返しが実は、MADOKAのように誰にも感謝されずに闘っている「誰か」のおかげだと想像すること、コミュニケーションが本質的に不可能な僕らが抱く、そんな一瞬のロマンチックな非日常的空想へのいざないが、このアニメのもう一つの主題なのではないだろうか。

まさむね

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この作品以外のアニメ評論は、コチラからご覧下さい。

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