「なるまん」が提起する問題を自らの問題として受け止めることの出来る感性こそ、僕らに求められているのだ

山野車輪氏の「なるまん」は、マンガ家志望の少女達が、現代という過酷な時代において、マンガ家を志す物語である。
しかし、その道のりは平坦ではない。そこにはマンガ界が陥っている構造的な問題点がいくつも立ちはだかっているのである。
一時は隆盛を誇ったマンガ雑誌の長期的凋落、それに連動するかのように単行本部数の伸び悩みと、それに反比例するかのような出版点数の増加。
しかも、マンガ雑誌にはベテランマンガ家の長期連載が居座り、ほんの一握りの作品だけが、クロスメディア化によって巨万の富を築いている一方で、その他多くのマンガ家たち、そしてその卵達は、細々と宝くじ的な夢を食べながら生きざるを得ない現状。おそらく、こんな状態が続けば、日本が誇るマンガ文化は先細りにならざるを得ない...

外から漠然と見ているだけではわからない、マンガ業界の悲惨な状況を客観的なデータと、詳細な分析で語っていくこの「なるまん」こそ、現在、マンガ家になろうという漠然とした夢を抱いている多くの若者が手にすべき一冊である。

しかし、そんな悲観的な話ばかりをしていても仕方が無い。現状を踏まえた上で、マンガ家たちは今後、何をどうしていくべきなのか。
この「なるまん」で最も刮目すべきなのは、最終章の「あしたに向ってこれからのマンガ家のあり方を考える」である。

この章には、これからの時代の可能性として、フリーミアム(無料でサービスを提供することで多くのユーザーを獲得しそのなかから有料サービスにも金を出すユーザーを獲得する戦略)や、他のジャンルのクリエーターとのタイアップ、マンガを核としたクロスメディア戦略、政策委員会方式、そしてそれらに必要なノウハウを持つ編集プロデュースエージェントが手際よく紹介されている。
それらを総合して言ならば、それは、既成のマンガ家が頼りきっている出版社におんぶにだっこであった古いビジネスモデルとの決別のススメなのである。
マンガ家は、ただマンガを描いていればいい時代は終焉をむかえたのだ。これからは出版社に頼らず、自分の道は自分で切り開く自己プロデュースを含めた、つまり、作品だけでなく、生き方そのものが商品(ウリ)となるようなマンガ家とならなければならない時代になったということでもある。

山野氏自身の通常の雑誌漫画家出世ルートの外道で世に出たという実績、そして自負があるがゆえに、この作品には一定の説得力があるように思える。当然、山野氏は山野氏だけの正解にたどり着いたのであり、おそらく、それは他の人には通用しない正解なのであろう。

これからの時代、マンガ家になるための方程式の正解は、残念ながら一つではない。
子供の頃からマンガを書き続け、技術を磨き、出版社の賞に応募したり、作品持ち込みをしたりしてメジャー誌でデビュー、そこで人気を得て、単行本というような「マンガ道」は既に無くなってしまっているのかもしれない。
しかし、方程式は複次方程式になっただけであり、正解はどこかに必ずあるはずだ。
ただし、その正解は、それぞれのマンガ家が、見つけ出さなければならない。だからこそ、これからは厳しくもエキサイティングな時代なのである。

「なるまん」では最後のページに手塚治虫氏が出てくる。マンガ家志望の女の子は言う。
「もし、手塚治虫先生が生きていたら、これまでのマンガのかたちに執着せず新しいなにかをやろうとしたと思う。」
その通りだ。手塚氏が偉大だったのは、その残した作品だけが偉大だったわけではない。おそらく、常に、マンガを表現する場所、そしてマンガの可能性を広げようと努力してきたその姿勢こそ偉大だったのである。これからのマンガ家は、手塚精神をこそ、見習うべきだと、この「なるまん」は言っているように僕は思えた。

しかし、この「なるまん」が本当に面白いのは、実は、この作品は、マンガ界だけの話をしているわけではないからである。
マンガはあくまでも一つの例なのだ。
そうだ!!この本は、現在、閉塞状況に陥っている日本人、全員に対するメッセージとして読むべきなのである。
それこそが、「なるまん」の隠し味(肝)なのだ。

例えば、マンガ業界では雑誌のピークは1995年であり、それから徐々に衰退の道を歩む中で、今までのビジネスモデルがついにもたなくなったのが現在であるという認識は、その他の多くの業界や日本経済にとって、そして、おそらく日本人一人一人にとっても、ほぼ言える事なのではないだろうか。

中国や韓国などの新興国との争いの中で、縮小せざるを得ない業界もあるだろう。円高の影響でコスト削減を強いられている業界もあるだろう。あるいは、インターネットの普及によって、ダメージを受けた業界もあるだろう。業界によって、様々な要因はあるにしても、従来の会社システム(年功賃金、正社員至上主義など)が揺らいでいる現在、一人一人が今まで通り、全員が一つの方程式の解を求めていけばよかったような平和な時代は終わりかけているのだ。

そんな時代の転換点における「考えるヒント」として「なるまん」はおおいに啓発的な内容を持っている。
この本の内容を他人の家の火事としてではなく、自らの問題として受け止めることの出来る感性こそ、現代、求められているのである。

まさむね

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