「崖の上のポニョ」 ポニョはハルヒと思えばいい

2008年公開のジブリアニメ「崖の上のポニョ」を観た。

配収150億円を超え、歌も大ヒットした。ビジネス的には大成功した作品であろう。しかし、どうも評判はあまりよくないらしい。
あの、古谷経衡氏も、ニコニコアニメ夜話で、「コミュニケーションを拒否している」と批判をされていたし、竹熊健太郎さんも、ブログ「たけくまメモ」の宮崎駿のアヴァンギャルドな悪夢というエントリーで、「「強いて言うなら傑作」だと認めるにやぶさかではない」と認めつつも、「確かに宮崎アニメに違いないが、見ている最中の「違和感」は、これまで感じたことがないほどのものであった。」と、評価の難しさを書かれていた。
また、Amazon等のユーザーレビューを見ると、7割~8割以上が酷評が書かれている。これはどうしたことか。

僕は基本的に、アニメを観る前に、そういった批評を読んだり、気にしないようにしているのだが、今回ばかりは、ちょっと気になった。しかし、ある意味、楽しみでもあった。そこには、それだけ視聴者を刺激する「何か」があるということだからだ。

前置きが長くなってしまったが、とりあえず、一回目の感想。とにかくポニョが波の上を走るシーンが面白いこと、これは何度観ても飽きない。子供の頃だったら、おそらく誰もが夢想したであろう「水上走り」がそこに実現しているのだから、楽しくないはずがない。
しかし、その一方で、後半の流れが判りにくい。謎だらけだった。思いつくままに上げてみると...

◎フジモトは、どうやって、海中でも生きていられるようになったのか。そして、どうやって女神と結婚したのか。
◎5歳の宗介はともかく、母親のリサは、何故、ポニョという存在自体に驚かないのか。
◎何故、一晩開けたら、街が水浸しになっていたのだろうか。ポニョのせい?
◎その増幅した海水に何故、古代魚がいるのだろうか。
◎(小さい疑問として、何故、それが古代魚だと5歳の子が判るのだろうか。しかも名前まで...)
◎何故、リサは自家用車(リサカー)を道の途中に置いてきてしまったのか。
◎養老院「ひまわりの家」の車椅子の老婆達は、何故、歩けるようになったのか。
◎ポニョの存在と月が近づいてくること(地球の危機)とどのように関係があるのか。
◎途中で、水の上であった赤ちゃん連れの夫婦は一体何だったのか。
◎トンネルの入り口にあったお地蔵さんはどういう意味があったのか。
◎最後、何故、自衛隊の艦隊が港に沢山いたのか。
◎リサとポニョの母親のグランマンマーレ(海なる母)は何を話していたのか。
◎大体、宗介、リサ、宗介の父、「ひまわりの家」の人々は、大津波で、生きていたのか、死んだのか、一旦死んだのが生き返ったのか、よくわからない。

ただ、少なくとも、最後にポニョが人間になってハッピーエンドというところだけはわかったのだが...

ということで、もう一度、観ることにした。そして、今回は、あまり疑問を抱かないように、画面に映っているものを、出来るだけ、ありのままに受け入れて観ようと思った。そうしないと一回目と同じように謎だけが残るような気がしたからである。そして結果的に、さらに二回観てしまった。

すると、このアニメは、ポニョと宗介という子供の成長の話であり、老婆達の自立の物語であることが、なんとなくわかってきた。

ポニョは、宗介という友達(恋人)を得る一方で、引き換えに魔法や無意識の力を喪失することによって人間になることが出来た。
これは、おそらく成長心理学的にも、幼児が全能感を喪失し、社会性を持つようになる過程と対応している。

宗介は、冒険の末に、母親の元にたどり着くことが出来た。
また、「愛の試験」に合格して、ポニョを守りきることが出来た。つまり、試練と試験を通過することによって成長したということだ。

そして、老婆達は歩けるようになることによって自立心が生まれた。

簡単に言ってしまえば、これらが、この物語の結末である。

物事を難しくしていたのは、ポニョは、人間(宗介)の血と「生命の水」を飲んだ(浴びた?)せいで、世界をも左右するような力を持つようになってしまったということだ。そして、そうなってしまった世界の仕掛け、いわば世界観のようなものの解釈を諦めてしまえばなんとなく見えてきたのである。

無意識のうちに世界を改変させるような力を持つ存在という意味で、ポニョはハルヒに近い存在かもしれない。
ハルヒもポニョも無意識のうちに世界を混沌に陥れ(世界に大穴を開け)、周囲を混乱させるからである。
また、その自身の力を認識していないということと、周囲がその力を本人に伝えようとしないでなんとかしようとするという点もポニョとハルヒの類似点である。
ただ、ポニョは人間じゃなくて、ハルヒは人間であること、ポニョは5歳位で、ハルヒは16歳位なだけである。

そして、その世界の結末が、少女の恋人に委ねられるという意味で、「崖の上のポニョ」とは宮崎駿版のセカイ系の話であるということも言えるのだ。

また、以前、僕は赤ちゃんが泣いて物を破壊するという想像力に関してというエントリーを書いて、サイボーグ009の001、オバケのQ太郎の弟のO二郎、花のピュンピュン丸の弟のチビ丸、ゲゲゲの鬼太郎に出てくる子泣き爺、千と千尋の神隠しの湯婆婆の子供の坊の類似性を指摘したが、ポニョが起きている時の無意識の力も「幼児の馬鹿力」の亜流ということも言えるかもしれない。

例えば、大波の乗ってポニョがやって来た後、ポニョが宗介の家で食事をしている途中で寝てしまう。すると波が静まる。
リサが海を見て、「宗介、見て、波が静まっている。」と言うと、宗介はポツリと「ポニョが寝たからかなぁ」と言うが、ポニョの興奮度と海の荒れ具合には相関関係があるということを宗介は薄々気づいているのである。
また、最後の海の中の世界(あの世)において、フジモトは老婆達から「フジモトさん、まさか宗チャンやポニョにひどいことをしないでしょうね。」と言われ、「それは勿論、ポニョが寝てさえくれれば」と言い返す。これは、つまり、ポニョが起きている時は制御出来ないくらいの混乱を世界に生じさせるということを表しているのではないか。

そして、そのポニョの無意識の力を鎮めるために、父親のフジモトと母親のグランマンマーレ(海なる母)は、苦肉の策としてポニョを人間にしようとする。
つまり、「崖の上のポニョ」を、海の世界からの観点で言えば、娘のポニョを追放することによって、世界の安定(世界の綻びを閉ざすこと)を回復させようとする物語なのである。

また、人間の側から言えば、津波によって亡くなってしまった老婆やリサ達の命の再生は当然として(何故なら、もともとポニョが引き起こした津波による被害のため失われたものだから)、その上に、老婆達の足の再生を引き換えにして、ポニョという幼児を共同体に受け入れる話なのである。
おそらく、リサとグランマンマーレとの会談は、そのあたりの交渉だったと思えなくもない。

また、うがった見方をするならば、老婆達の足の再生によって、介護負担が軽減した分、リサがポニョという子供に時間を割くようにすべきという、老人自立と養育と養護の時間再配分を促す話なのである。さらに、別の観点から言えば、これは「足」の物語なのである。

しかし、敢えて言えば、心配なのは、宗介の今後である。
宗介は確かに、ポニョのことを好きだろう。
でも、宗介にとって、ポニョとは願い事を叶えてくれる魔法の存在として好きだという面もあったのではないか。
つまり、魚としてのポニョはペットとして好き、半魚人としてのポニョは、魔法が使えるから好き、人間としてのポニョは友達として好きだったのではないか。
それが、ポニョが人間になることによって、前二つの属性が消えてしまった時に、他の女の子以上にポニョのことを好きで居続けられるのだろうか。

なにせ、彼はまだ5歳である。
彼は5歳にして、大きな愛の十字架を背負ってしまったのである。

一方、ポニョも、たった5歳にして、いろんな可能性を捨ててしまって、本当によかったのだろうか。
大きくなって、「自分は子供の頃は、世界を動かすほどの魔法が使えたのに...」と後悔しないだろうか。

いや、実のところ、僕は、後悔した時に始まるエディプス神話のポニョ版も観てみたい気がするのであるが。

最後に、この「崖の上のポニョ」における世界構造の話であるが、それは三回観た今でも、一回目に見た謎の多くが残っているのも事実だ。
しかし、それはそれでいいのではないだろうか、という気にもなっている。

宗介を自宅に残して、嵐の夜に出かける際に、リサは、宗介にこう言う。

不思議なことがいっぱい起こっているけど、今は何故なのかはわからない。
でも、そのうちにわかるでしょう。
今はひまわりの人達が心配なの。
宗介はここを守ってくれたほうがリサの力が出るの。
大丈夫、絶対戻ってくるから。

重要なのは、世界の謎を解明することではなく、現実の問題に対応することである。
そして、これこそが、ゼロ年代のアニメの主題の一つである「新世紀エヴァンゲリオン」的問題から、「涼宮ハルヒの憂鬱」的実践への転換だというのが僕の仮説である(ジャック・ラカンの現実観と「涼宮ハルヒの憂鬱」の世界観)。

まさむね

この作品以外のアニメ評論は、コチラからご覧下さい。

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