日本人とは何かを考えるとき、たまに思い出したい「忘れられた日本人」

昨日、一昨日と映画「悪人」について熱く語ってしまいましたが、今日はまた『忘れられた日本人』についてお話を戻したいと思います。

この作品は本当に、話が具体的で面白いですね。一方で柳田國男は文献から、真実を読み取る天才ならば、この宮本常一は、フィールドワークの天才かもしれません。話の引き出し方が本当に巧みです。
ただ、この宮本さんは、柳田さんからは疎んじられたという話が伝わってきます。これは想像ですが、どこか、柳田さんは宮本さんのフットワークの軽さに嫉妬していたかもしれません。
また、「性」に対する臆面の無いスタンスが柳田さんから嫌悪されたという話も聞きます。確かに、民俗学で「性」を扱えるかどうかって、本当に、「肌(学風)」に依存するところが大きいのかもしれません。「性風俗」は一方でエリート官僚だった柳田さんの肌にはやっぱり合わないような気もします。

さて、『忘れられた日本人』の中にも、そんな「性」を扱った箇所がところどころに出てきます。
特に、農村の女性達が、田植えなどの農作業をするときに、エロ話ばかりをしていたという話は面白い。
例えば、ある、年増の女性二人がこんな話をします。

「この頃は田の神様も面白うなかろうのう」
「なしてや・・・」
「みんなモンペをはいて田植するようになったで」
「へえ?」
「田植ちうもんはシンキなもんで、なかなかハカが行きはせんので、田の神様を喜ばして、田植えを手伝うてもろうたもんじゃちうに」
「そうじゃろうか?」
「そうというの、モンペをはかずにへこ(腰巻)だけじゃと下から丸見えじゃろうが田の神さまがニンマリニンマリして・・・」
「手がつくまいにのう(仕事にならないだろう)」

僕には、一般的な知識として、日本には、冬は山にいた「山の神」が春になると里へ降りてきて、「田の神」となり、稲作を手伝ってくれるという信仰がある、という程度のことは知っていたのですが、具体的に、田植えをしていた女性達が「田の神」に対してどのように接していたのかは想像の外でした。
でも、こんな話を読むと、かなり具体的に、イメージ出来たような気がします。
昔の人々達は、本当に親しみを込めて神様と接していたということなんでしょう。
それは神様というよりは、本当に普通のアンちゃんを相手にしているような、肩の力を抜いた接し方ですからね。

さて、この本には、そんな女性達も嫁に行く前には、世間のことを知らないといけないということで、数人で旅に出たという話も出てきます。
「はぁ、昔にゃ世間をしらん娘は嫁にもらいてがのうての、あれは竈の前行儀しか知らんちうて、世間をしておらんとどうしても考えが狭まうなりますけのう、わしゃ十九の年に四国をまわったことがありました...」

というわけです。今でも大学卒業時などに、卒業旅行と称して、女性達がグループで旅行することは普通ですが、もしかしたら、そのルーツはこんな時代にもあったのかもしれません。
当然、昭和初期以前ですから、彼女達は歩いて旅行をして、いろんな土地を見て回るのですが、特に四国地方では、お遍路さん饗応の伝統があるので、そんな女性たちにも、道々の人々は食べ物や宿を提供したみたいですね。
本当に、昔の日本人達は、貰うほうも、あげる方もおおらかだったのでしょう。
そして、若い女性たちは、そんな見知らぬ人とのやりとり(交渉)の中で、世間を知っていったということなのではないでしょうかね。

最後に、もう一つ、面白い話。
実は、彼女達が旅をしていると、人々からもらったものは食べ物だけではなかったという話が出てきます。

「食うものばかりではなかったんですのう。」
「はあい、いろんなものをくれました。伊予の山の中では娘をもろうてくれんかと言われて・・・何をさせて使うてくれてもかまわん。
食わして大きうしてくれさえしたらええと言うておりました。よっぽど暮らしに困っておりましっしゃろう。
遍路の中にも子供の手をひいてあるいているのがたくさんおりました。たいがいはもらい子じゃったようであります。
(中略)
中には買うて来た子もいたが、たいがいは親がよう育てんからもろうてくれといわれてもらうて来たものであります。」

これはある角度から見ると、残酷物語ですが、別角度から見ると、人々のおおらかさのある側面を表したものといえるかもしれません。

日本人は、ほんの二~三世代前には、こんな風にして生きていたんだなぁと、しみじみ思います。

政治家などが、よく、日本人らしさとは何か、とか、日本人とは本来こうこうあるべきだ、みたいな話をよくしますが、そんな時、ちょっと『忘れられた日本人』を思い出しながら聞いてみるのもいいかと思いました。

まさむね

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